STORY14.「30年続く、母の味」
扉を開くと「おかえり」と聞こえてきそうな「喫茶とお食事 奈々さん」。店内のカウンターにはご自慢のサイフォンがおかれ、珈琲の良い香りが漂う。お店を始めて30年、どんなに忙しい時でもお客さんとの会話を大切にしてきたという森田さん。「人とのつながりを大事にここまできた。多くの方に支えられ今がある。」と笑顔で語ってくださった。そんな優しさに惹かれ、足しげく通う方も多いお店に、始めてミル弁企画のお願いに伺うと、「面白そうだけれど、若い人ばかり参加しはるのと違うの?自信がないわ~」と言われた。
その頃は、木津川市内のお店数百店舗を訪ね歩いていた時期。どんなにお願いに回っても、ことごとく断られ、もしかするとお断りされることに慣れだしていたのかもしれない。だから、自信がないと言われると、「ぜひ、ご検討ください。」というのがやっとで、内心、「ここも駄目か…。」と、肩を落としお店を後にしていた。しかし、その後すぐに参戦してくださるとの連絡が入り歓喜に沸いた。 実はこちらのお店、周辺の商工会や役所の方も常連で、参戦店集めに奔走する私たちをみかね、色んな方が次々に頼み込んでくださったそうだ。そんな後押しがあったこと、「若い人がそこまで頑張っているなら応援したい」と参加を決めてくださった森田さん、皆さんの優しい想いを後から聞いて目頭が熱くなった。
「どんなミル弁になりそうですか?」とお聞きすると、「お肉も野菜もバランスよく取れ、子どもにも安心して食べさせられる行楽弁当を作りたい」とのこと。やっぱり、若い人の好みは若い人に聞くのが一番と、娘さんにも相談しながらミル弁レシピの開発に取り組んでくださっていた。一体どんなお弁当になるのだろう。期待に胸が膨らんだ。 そうしてミル弁取材のために訪問すると、ちょうど試作中だった。テーブルの上に並んだ料理は明らかに撮影用より多い目!下宿生の多い「きづのもり」メンバー、「みんなも食べてみて!」と言われ、ご厚意に甘えることに。味見をさせてもらい、一同正直驚いた。家庭料理の定番も30年続く店の味になると、これ程までに美味しいものか!?と、みなで顔を見合わせた。 常連さんの好きなメニューから、チャーハン、きんぴら、からあげと、自家製野菜もたっぷりに、仕上げにはポテトサラダと焼肉まで入った弁当。「こんなんで良いんかなぁ~。」とお母さんの心配をよそに、「この容器によう入ったなぁ~」と驚くほどのボリューム。大人も子どもも喜ぶ“母の味”で揃えたラインナップは、優しさが溢れんばかりに30年の技が活きる彩りで完成した。
ついに迎えた「お茶の京都博 へうげもの茶宴inみかのはら」。多くの方にこの優しい“母の味”を味わってもらいたいとの想いを胸に販売!当日、ミル弁ブースは大盛況、すぐに完売となった。奈々さんのミル弁を食べた方から「ボリュームがあって大満足!」「懐かしいお母さんの味でした」などの嬉しいお声が続々と届いた。 手作り・家庭料理をモットーに、材料さえあればリクエストには何でも応えるという店内には、驚くほどのメニューが並ぶ。「ここで食べる時位、好きなものを“ちょっと多めに”してあげたい。」と笑顔で語る森田さん。そんなさりげない気配りは、常連さんの好みを知りつくすお母さんならでは。そんな愛情がプラスされる料理を食べに、「ただいま」と訪ねてみてはいかがだろうか。